何度でもあなたをつかまえる
自作のアルトリコーダーとバロックオーボエを軽妙に吹き鳴らすはずだった白い指が、ピックをつまみ弦を掻き鳴らすのを、かほりは複雑な想いで見守った。


まずい……。

確かに、これは、まずい……。


IDEA(イデア)と名乗った3人のメンバーは、ビジュアルと実力を兼ね備えていた。

あきらかに、他の出場者より格上だった。



メンバーの中で、男として一番イケメンなのは、かほりの贔屓目ではなく、雅人だ。

もともと器用な雅人は、さまざまな古楽器の演奏にたけていたが、クラシックギターでも、バロックギターでもない、普通のアコースティックギターも超絶に上手かった。


真ん中で主旋律を歌いあげていた茂木は、容姿は十人並みだけど、声は誰もが認める美声の持ち主だ。

カウンターテナーとはまた違うけれど、心地いい歌声に会場中が魅了された。


そして、エレキギターをギャンギャンと響かせながら、自身も男とは思えない奇声を上げる一条。

中性的な美貌も、奇抜なスタイルも、あまり上手くないエレキと歌も、万人受けはしない。

だが、強烈なインパクトを与えることは間違いない。



……きっと、雅人たちが優勝してしまう……。

ざわざわと、胸が重苦しく蠢いた。



かほりの嫌な予感は的中し、雅人は、かほりの愛するバッハやテレマンからかけ離れた世界へと進んだ。

秋から一緒に行くはずだったハンブルクへの留学も、立ち消えた……。

楽しみにしていた分だけ、気落ちも大きい。



忙しそうな雅人とは対照的に、かほりは、ただ、雅人を待つだけの日々を送った。



IDEA(イデア)に対する事務所の売り出し方針は、裏目に出た。

小器用で何でもできる雅人はステージの真ん中で狂言回しを仰せつかった。

トークの中心となり、笑顔と愛想を振りまき、楽器を持たずにハンドマイクでコーラスを付けながら、踊る雅人。

最初のうちは、とても見てられないと、かほりは目を背けた。

雅人はすぐにアイドルばりのダンスをこなせるようになった。


素晴らしい美声と表現力を持つ茂木は、事務所からヴォーカルを取り上げられコーラスに甘んじた。


そして、新たにメインヴォーカルを押し付けられたのが、一条。

雅人とは対照的に不器用な一条は、ダンスはヘロヘロ、肝心の音程すら定まらないまま、必死でハンドマイクを握り、歌い続けた。
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