何度でもあなたをつかまえる
ああ……そうだ……。

ケルンで、かほりが持ってきた赤い錠前の鍵だ。

すっかり忘れていた……。

というか、落としたことにも気づいてなかった。


何とも……象徴的だな……。

かほりと再会して、一夜を共にした、その翌日に、こんな風に……俺の元に戻ってくるなんて……。


雅人の顔に浮かんだ甘い感情に、りう子は気づいた。

「なに?その顔。……妻としては、ヤキモチ焼いちゃうんだけど。いわく付きの鍵なんだ。ふーん。……捨てちゃえばよかった。」

もちろん本気じゃなくて……単にからかったつもりだった。

でも、雅人は図星をさされたせいか、ばつが悪そうな顔をして……それから、ムキになった。

「いいから、返してよ。それ。滝沢さんには関係ないだろ。」

さすがに、りう子はムッとした。


関係ない?

……どうせ、関係ないわよ。

ムカつく……。


ふくれっ面のりう子に、雅人は失策を悟った。

「ごめん。そうじゃなくて……ごめん、ほんとに。ねえ、返してよ。それ、ただのオモチャだけどさ……俺にとっては、大切なものなんだ……。」

そう懇願しながら、雅人はりう子の背後から腕を回した。

……抱きしめたわけではない。

でも、彼氏いない暦イコール年齢のりう子は……真っ赤になって、うつむいた。

考えてみれば、雅人と寝たと言っても……酔った勢いというか……どういう手順を踏んで、ベッドインしたのかすら、ほとんど覚えていない。

少しは痛かったような気もするけど、それ以上に、ふわふわとして……気持ち良かった……気がする……。


耳まで赤くなって固まっているりう子は、まるで別人のように可愛かった。


雅人も、りう子との夜は、ほとんど覚えていない。

ノリと勢いで押し倒した気がする……けど……まさか、りう子が未経験だとは思わなくて……そうだ……なかなか入らなくて……かなり無理矢理ヤッてしまった……気がする……。

……かわいそうなことをしてしまったな……。

せめて……嫌悪感を払拭できるように……イイ想いをさせてあげたい……。


雅人の中の悪癖が、ぬーっと鎌首をもたげる。

首元に唇を這わせると、りう子は熱い吐息を漏らして、ぶるっと震えた。

……かわいいな。

雅人は、りう子の耳を舐めて、過剰な反応を楽しんだ。
< 80 / 234 >

この作品をシェア

pagetop