何度でもあなたをつかまえる
「……おっしゃる通り、尾崎には無責任なところがあります。申し訳ありません。……僭越とお思いになられるかもしれませんが、私どもが、出来うる限りのことをさせていただきたいと思っています。」

りう子は、目を剥いた。

このヒト、何、言ってるんだろう?

てか、何者?

「えーと、橘さん?見たところ、尾崎と同年代に見えるけど、保護者みたいなこと言ってるわよ?……尾崎とはどういう関係なの?」


不審げなりう子の言葉と瞳が、かほりの心に突き刺さる。

……まさか、雅人との関係を、他の女性から問い詰められる日が来るなんて……。

留学なんてするんじゃなかった。

ずっとずっと、雅人のそばにいるべきだった……。

「……とても……口惜しいのですが……奥さまに面と向かって申し上げられるような関係ではありません。……申し訳ありません。」

かほりの瞳からホロリと涙がこぼれ落ちた。

慌ててかほりは涙を振り払うように勢いよくソファから立ち上がると、すっと床に正座して、深々と頭を下げた。


突然の土下座に、りう子はギョッとした。

「ちょ!やめてください!……あの!……お願い、やめて!……ねえ?」

りう子が止めても、かほりは頭を上げなかった。

諦めて、りう子も床に正座した。


……ここ数日、掃除機をかけてない……ううう……。

埃や小さなゴミ、髪が目につく。

泣きたいのはこっちのほうよ……。


膝がくっつきそうなほどにじり寄って、りう子はかほりの顔を覗き込んだ。

「ねえ?普通にソファに座って話してくれない?……今日まだ起きたばっかりで、掃除機かかってないの。」


かほりは涙いっぱいの目でりう子を見た。

至近距離で見つめ合って……気づいてしまった……。

「雅人の匂い……。」


りう子は、ぎくりとした。

慌てて、立ち上がり、逃げるようにソファに座った。

……いや、まだ夫婦なんだから……別に、悪いことじゃないんだけどさ……何となく……かほりが傷ついたのが伝わってきて……。


かほりの顔から血の気が引いた。

綺麗に紅を引いた唇がふるふると震えている。


……尾崎よ……あんた、この状況……どうしてくれるのよ……。

りう子は、耐えられずに、天を仰いだ。
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