何度でもあなたをつかまえる
かほりは涙をハンカチで押さえてから、おもむろに尋ねた。

「夕べ、雅人はこちらに……泊めていただいたのですか?」


傷ついた瞳が痛々しくて、りう子はつい誤魔化した。

「泊ってはいないんじゃないかな?夕べ、確かに、来たけどさ。離婚したいって言って来たの。それで、ビール飲んで、酔っ払って寝ちゃって……起きたら居なかったから、尾崎は帰ったんだと思う。」


「離婚……。」

かほりは、心底驚いた。

あの雅人が、自ら、別れを切り出しに来たというのか……。

こんなの、初めてのことだ。

昨日、帰りの新幹線の中で、離婚するって言ってたけど……まさか、すぐに行動してくれるなんて思いもしなかった。


かほりへの償い?

……ううん、それだけじゃないわね。

たぶん……。

かほりは、心配そうに自分を見ているりう子を改めて見た。

大らかでさっぱりした気質の、優しいヒト。

「……雅人は……よほど滝沢さまを信頼して、大切に思っていますのね……。事務所の職員さんではなく、メンバーの一員でいらっしゃるのね。」

うらやましい……。

かほりの飲み込んだ言葉が、りう子には聞こえた気がした。

「まあ……前の事務所を辞めてまで一緒にがんばってるからね。それは、尾崎だけじゃないわ。チーフマネージャーも、茂木も一条も、みんな……家族同然……いや、家族は適当じゃないわね……うーん……同志?戦友?」

家族という言葉を否定するのも、かほりを気遣っての言い換えだった。

かほりは改めてソファに座り直してから、深々と頭を下げた。

「ありがとうございます。どうか、今後とも、尾崎のことをよろしくお願いいたします。」

「……はあ。……で、橘さん?あなたは……尾崎の恋人?……のようだけど……婚約してたの?いつからつきあってるの?」

りう子の質問は、妻としてのものではなく、事務所のマネージャーとしての尋問だった。
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