何度でもあなたをつかまえる
「……はあ……。あの……はい……。……えーと、でも、あの……お子さんは……。……まさか、もう中絶されてしまわれたとか……。

みるみるうちに、かほりの顔から血の気が引いていく。

かわいいなあ!と、りう子は思わずかほりの背中を撫でた。

「違う違う。私、カトリックだから。授かった命は大切に育むつもりやったんよ、本気で。……でも、妊娠してなかったの。」

「……え……。」

今度は、かほりの両の目から涙がホロホロとこぼれ落ちる。

ホッとしたわけではないらしい。

うれし泣きでもないようだ。


……この子、本気で……私が妊娠してなかったことを……子供が出来てなかったことを……悲しんではるわ……。

りう子は、無言でかほりにティッシュを箱ごと渡し、再びかほりの背中を撫でた。


「……すみません……ありがとうございます……ごめんなさい……私、どう言えばいいのか……。……残念でしたね……。」

ティッシュで、鼻を押さえながら、かほりがそう言った。


「うん。残念。ホッとしてるし、せいせいしてるし、よかったーとも思うけど……やっぱり、残念。ほんのわずかだけど、ココに子供が宿ったと思うと……うれしかったわ。全然好きでも何でもない男の子供でもね!」

最後はむしろ明るくそう言って、りう子は鼻を啜った。


「お気持ちお察しいたします。……でも、今度は、本当に愛する男性のお子さまを授かることをお祈りいたします。」

そう言って、かほりは両手を合わせて本当に祈りを捧げた。

形は仏教の合掌と同じだが……最後に口の中でアーメンと唱えて、十字を切った。

「かおりちゃん、もしかして……カトリック?」

りう子にそう聞かれて、かほりは少し困った。

「……いえ。我が家は仏教です。でも、幼稚園から高校までカトリック系の学園でしたので……心はマリア様をお慕いしています。」

「わかる!そうよね!うちも、普通に仏教やけどさ、私も小・中・高とカトリックの女子校やってん!卒業の時に、友達と一緒に洗礼を受けたの。」

一応、地元では偏差値高めの有名なお嬢さま学校に通っていた。

確かに、お嬢さまも混じっていたけれど、ほとんどがりう子と同じように、中流家庭の子だった。

似たような学校教育を受けても、家庭環境が違うと、こうまで違うものか……。

しみじみと、りう子はかほりを見つめた。
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