何度でもあなたをつかまえる
「すみませんでした……ありがとうございます……。」

りう子は、ふたたび、かほりの背中をそっと撫でた。


たぶん、しっかりしたお嬢さまなんだろうけど……恋は別なのかな。

ちりちりと焼け付くように熱い気持ちをかほりから感じる。


この子、一生、尾崎の尻拭いをする覚悟をしてるんだ……。

すごいなあ。

そりゃ、あの尾崎が、執着するわけだ。

尾崎にとって、本当の家族より家族なんじゃない?

だからと言って、尾崎が今後浮気しない……って、保証が全くないけどね。

いばらの道だなあ……。


まあ、がんばれ。

応援するよ、かおりちゃん。





アップルパイ8分の1と、ビール2缶を飲んで辞去したかほりは、赤い顔のまま雅人の部屋を訪ねた。

「飲んでる?目が据わってるよ?」

迎え出た雅人は、からかうようにそう言った。

「うん。飲んでる。はい、これ、お土産~。りう子さんイイ人ね。お友達になったの。」

かほりはそう言って、雅人の首に両腕を回してしがみついた。


……はは……やっぱり、滝沢さんと膝詰談判してきたのか……。

まあ、そうなるよな。


「お土産って……。」

かほりを抱きながら、受取った封筒を開ける。

予想通り、署名捺印済の離婚届だ。

……ん?

もう1枚ある……。


げ。

婚姻届だ。

しかも保証人欄にりう子の署名捺印があるのを見て、雅人は天を仰いだ。

「……かほり……すごいね。」

敵わないな……。


雅人の感歎に、かほりは何も答えなかった。

本当は……詰(なじ)りたかった。



どうして、りう子さんから、雅人の匂いがするの?

どうして、りう子さんのベッドのヘッドボードの上に、あの鍵があったの?


もちろんかほりにはそれ以上追及するつもりはない。

どれだけ全身全霊を捧げて愛し合っても、そばにいる時以外は、かほりのモノでいてくれない。


わかってる。

でも、好きなの。

ずっとずっと、大好きなの。

……だから……。


「両方に、記入してくれる?」

かほりは雅人を見つめてそう言った。



雅人は、かほりの瞳の中に……ちろちろと黒い焰をハッキリ見て取った。


怒ってる……。

顔にも口にも出さないけれど、かほりは怒っている……。
< 91 / 234 >

この作品をシェア

pagetop