何度でもあなたをつかまえる
はあ?

「どういうこと?だって……領子お義姉さま、ちゃんと、嫁いで来られてから、ご懐妊されたし……計算が合わないなんてこと、ないわよ?」

気位の高そうな美人の兄嫁の領子は、舅姑のみならず、夫である千歳の妹、つまり小姑となるかほりにも、きちんと気遣いのできる才長(た)けた女性だ。

兄とは昔から家同士で結婚を決めていた、言わば婚約者だが、順番が逆になってしまうような過ちを犯すヒトではない。

まして、小説のように、他の男性の子供を身ごもったことを隠してお嫁に来られた……なんてことは、有り得ない。


でも、雅人は顔をしかめた。

「……結婚後に、他の男とヤッたってことじゃないの?」

「はあっ!?」

まさか、そんな……。

かほりは、ただただ驚いてしまった。


考えられない。

有り得ない。

そんな……そんなひどいこと……領子お姉さまが?


「とりあえずね、しばらくここにいよう。お母さんが取り乱して……手当たり次第、百合子ちゃんのお母さんに投げつけて……ガラスとか、陶器とか、床に破片がいっぱい散らばってた。亜子さんが、片づいたら呼びにきてくれるって。……キタさんのロータスティー、もう飲めないかもしれないなあ。」

雅人が残念そうにつぶやいた。


……キタさんに、お茶の入れ方を教えていただくべきだったかしら。

かほりはぼんやりとそんなことを考えていた。


兄と兄嫁のこと……百合子のことは、今は何も考えられそうになかった。

ずっと姪だと思っていたかわいい百合子ちゃんが他人だなんて、思いたくない。



困惑しているかほりをいたわるように、雅人はずっと肩を抱いていた。





その夜。

夕食は、かほりと雅人、2人きりで食べることになってしまった。

大きなテーブルに、ぽつねんと……。

知らせを受けて帰宅した父と兄は、弁護士と一緒に領子の実家へ。

母は自室から出て来ようとせず、亜子さんが食事を運んで行った。

……領子と百合子は、今夜は父の手配したホテルに宿泊するようだ。


「百合子ちゃん、大丈夫かしら……。」

せっかくのお料理なのに……それも、大好きな雅人と2人なのに……かほりは沈んだままだった。

食後にコーヒーをいただいてると、父と兄が帰宅した。
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