鏡の中のワタシ



「買い物なんて嘘だから、今日は隼人とゆっくり過ごしたくてさ。早く隼人に抱かれたい」


もう一人のワタシは隼人に言った。


「いいから早く帰るぞ」


そう言って私達は帰った。


それからも学校では麻友を避け、麻友の周りには友達は居なくていつも隼人の側に居た。


それを見た友達は次第に麻友の悪口を言うようになり、私はいい気分だった。


夜は隼人に抱かれて、幸せを感じていた。


そして一ヶ月がたった頃、私は麻友に話があると言われて、放課後は二人でかえることにした。


教室に私以外、誰も居なくなると麻友は私の席にやってきた。


「一緒に、帰ろ?」


「麻友、話しって何?今は誰も居ないからここで話をしてよ」


すると麻友は隼人の席に座った。


私は心の中で舌打ちをする。


「ねぇ加奈子……どうして突然、私を避けるようになったの?もし私が気づかないで加奈子に嫌な思いをさせてるのなら直すから、だから前みたいに加奈子と仲良くしたいの」


するともう一人のワタシは麻友の言葉を聞いて声を上げて笑い出した。


「じゃあさ、隼人と別れてよ」


「えっ?」


「だーかーら、隼人と別れてよ!私さ、小さい頃からずっと隼人が好きで、隼人だけを見ていたの。告白しようと決めた次の日に、麻友と隼人が付き合いだしたと聞いてショックだった。麻友よりもずっと隼人の事が好きで、だけど上手く話せなくて……麻友にわかる?好きな人が違う誰かと手を繋いで楽しそうに歩く姿を隣で見せられる屈辱。麻友が憎くてたまらなかった。だけど諦めようと思っても、そんな私を毎日、毎日、一緒に帰ろうって……だから麻友から離れたのよ」


「そんな……加奈子が隼人を好きなんて知らなくて」


「話はそれだけ?じゃあ私は帰るから」


「待って……もし私が隼人と別れたら前みたいに仲良くしてくれるの?」


「別れたらね?」


そう言って教室を出た私は家に向かった。


家に着くともう一人のワタシは言った。


「麻友は隼人が居ても、友達が居ない事が耐えられないみたいね?私の計算通り。もうすぐ隼人はあなただけの隼人になるわね?」


そう言ってクスクスと笑う。


私だけの隼人……


少し麻友を見て言い過ぎなんじゃないかとも思ったけど、やっと隼人が私だけの……。


そう思うと喜ばずにはいられなかった。


最近は何も言わなくても隼人は私の家に来て、来ると私の体を求めてきていた。


もう一人のワタシは隼人に体を抱かれるときは、私から体を出て行き鏡の中に戻っていた。


私は前よりもっと隼人を好きになり、隼人も麻友よりも私を求めてくれているのがわかった。


もし麻友と隼人が別れたら、麻友とも前みたいに仲良くして、もう一人のワタシに体を貸すのは止めようと思った。


私が心の中でそう思った瞬間、もう一人のワタシはクスクスと笑い出した。


何故笑ったのかはわからないが、少し不気味だった。




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