鏡の中のワタシ
暫くすると、麻友を家まで隼人が送って行くのがわかった。
だいたい隼人が戻ってくるのは一時間後くらいだ。
隼人のお母さんは看護師をしていて、今日は夜勤みたいだ。
「隼人が帰って来たタイミングで窓から声をかけるから。心の準備だけしといてね?もし隼人に抱かれたらあなたは最高に気持ちがいいでしょうね?麻友の知らない間に隼人はあなたを抱くんだから」
もう一人のワタシはクスクスと笑う。
それを考えると悪い気もしない。
だって私は何も悪くないんだから。
悪いのは横取りしたあの女なんだから……。
私は隼人の帰りが待ち遠しかった。
そして約一時間後、隼人が帰ってきた。
「隼人っ!」
もう一人のワタシが窓から隼人に声を掛ける。
私は思春期になると、自分から隼人に声を掛ける事が出来なくなっていた。
そんな私に隼人は今まで通り声をかけてくれたり、学校も一緒に行ってくれていた。
友達にも二人は仲良しでお似合いだね?ってよく言われたし、それだけで満足だった。
何度も告白するチャンスはあったけど、臆病者の私は言えなかった。
そして覚悟を決めた時にあの女が……。
「どうしたんだよ加奈子?」
「隼人に話しがあるんだけど、家にこない?」
「あぁ、いいよ」
その返事を聞いて玄関に向かい鍵を開けた。
「ごめんね突然、中に入って」
「気にすんな、てか久しぶりに来たな加奈子の家。おばさん達はまだ戻ってこないから寂しいだろ?お袋も言ってたけど、たまにはオレンヂで飯でも食いにこいよ?」
「ありがと」
少し玄関で話して、隼人を私の部屋に入れた。
もう一人のワタシだから上手く話せてるけど、私だったら会話なんて上手く話せない。
隼人は私のベッドに座り、私を見て言った。
「何だよ話って?」
「あのね……」
もう一人のワタシが口を開いた時、私はドキドキしていた。