溶ける部屋
「俺から行く」


健が真っ先にそう言った。


「健……」


「心配するな明日花。いざとなれば弘明が俺を担いで連れ出してくれる。なぁ、そうだろ?」


「あぁ。もちろんだ」


弘明がそう言い、冗談っぽく力コブを作って見せた。


その様子にほほ笑む伶香。


不安の方が大きいはずなのに、こんな風にみんなを安心させてくれる健。


あたしは健の事が本当に好きだと、改めて感じた。


「よし、じゃぁ、まずは手を縛ってくれ」


健がそう言うので、あたしはロープを手に取った。


人の手なんて結んだ事がないから難しかったけれど、健を縛る役はあたしがやると決めていたんだ。


「ありがとう、明日花。弘明、緩まないように最後に力一杯しめてくれ」


「いいのか?」


「あぁ。頼む」


弘明が結び目をキツク閉める。


すこしだけ健が顔をしかめた。


ロープが手首に食い込んでいるのが見えて、あたしは思わず顔をそむけてしまった。


「よし、じゃぁ、10分数えてくれ」


「わかった」


あたしは大きく頷き、健は部屋の中へと入って行ったのだった……。
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