溶ける部屋
そう声をかけると「大丈夫だ」と、聞こえて来た。


その声はいつもの変わらない健の声だ。


「あと5分だから、頑張って!」


「あぁ、わかった」


そして再び沈黙が訪れる。


たった10分という短い時間が、異様なまでに長く感じられる。


会話も続かず、みんな部屋の中の健を心配しているのがわかった。


「この部屋に入ると、自分に素直になるんだよね」


不意に郁美がそう言った。


なんの感情も読み取れない、平坦な口調。


郁美の表情はとても冷たくて、まるで氷のようだ。


「そ、そうだね」


あたしはたじろきながらもそう答えた。


「あたしが出てきた時、もし、万が一……」
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