溶ける部屋
郁美が何かをいいかけたその時だった。


「10分経ったぞ!」


と、弘明が言った。


「え、あ、ほんと?」


郁美に話しかけられて脈をはかるのを忘れてしまっていたあたしは、慌ててドアを開けた。


「健、大丈夫!?」


部屋の中でうずくまっている健に駆け寄る。


健は顔をあげて「あぁ、平気だ」と言い、自分の力で立ち上がった。


少し足元がふらついているように見える。


弘明がすぐに健の腕のロープを外していく。


その腕は赤くなっていて、痛そうだ。


「それで、どうだった?」


伶香が聞く。


しかし健は左右に首をふって「何も思い出せない。でも、懐かしいような気持ちになはるんだ」と、答えた。


「何度も繰り返し部屋に入っていれば、何かを思い出すのかもしれない」


健はそう言い、あたしの体を抱きしめた。


「ちょっと、健!?」


突然の事であたしは慌てて健を引き離そうとする。


「この部屋に入ると自分の欲望までむき出しになるんだ。しばらくそのままでいてやれよ」


弘明の言葉にあたしは顔を真っ赤にしながら、健のぬくもりを感じていたのだった。
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