溶ける部屋
あたしは大きく深呼吸をした。


自分の持っているすべての感情が爆発しそうだった。


今健を見ればその体を押し倒してしまいそうだったし、郁美を見ればその顔をひっかいてやりそうだった。


その中にも、懐かしい気持ちは常に感じていた。


ずっと昔、幼いころの思い出が次々と蘇って来る。


小学校の頃の誕生日会。


遠足で友達と遊んだ時の事。


初めての演技で主役に選ばれた時の事。


それが今のあたしの感情とリンクしていることに、あたしは気が付いた。


子供は素直だ。


そして時として残酷だ。


この部屋では感情と記憶がどんどん子供に戻って行くようになっているのかもしれない。


その副作用として、体は溶ける……。


「明日花、大丈夫か?」


考えている内にいつの間にかドアが開いていて、健が顔を見せていた。


「健……?」


「10分経ったぞ」


「もう、そんなに?」


あたしはそう言いながら立ち上がる。


しかし足元がふらついて真っ直ぐ歩く事ができなかった。
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