溶ける部屋
あたしの頭の中にまた公園が蘇って来た。


幼いころの自分の姿がある。


男の女もなかったあの頃、みんなでサッカーをしていたんだっけ。


大人数で1人のボールを追いかけている。


ゴールが決まらなくたって、ただそれだけで楽しかった。


そんな時……遊具が置かれている広場の方に、人影を見つけた。


一瞬だれかの親だと思ったけれど、それはあたし達と同じくらい小さなシルエットだ。


あたしは走るのをやめてその子を見つめた。


顔も名前もハッキリしないけれど、スカートをはいていると言う事がわかった。


『変な子』


不意に誰かがそう言い、振り返った。


そこに立っていたのは幼いころの弘明で、弘明はジッとシルエットを見つめていた。


『そんな事言っちゃダメなんだよ!』


あたしは咄嗟にそう言っていた。


シルエットの子が誰なのかわからなかったけれど、人の悪口を言うのは良くない事だ。


『だって変だろ? あいついつもあそこでずっとこっちを見てるだぞ?』


弘明はそう言い『変な子!』と言いながら走って行ってしまった。


あたしが遊具の広間へと視線を戻した時には、もうその子の姿はなくなっていたのだった……。
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