溶ける部屋
「変なの」


伶香がそう言って後ろを向いた瞬間、あたしの脳裏に小さな女の子の顔が浮かんでい来た。


時々髪を耳にかけるのがその子の癖だった。


「明日花?」


ボーっとしていたあたしは健の声で我に返った。


「健……」


「なんだよ、さっきからどうかしたのか」


健は心配そうな顔であたしを見る。


「あたし、思い出したかもしれない」


「思い出すって、何をだ?」


「公園にいた女の子の顔だよ。名前までは思い出せないけれど、今一瞬浮かんできた!」


あたしがそう言うと洗い物を終えた伶香が笑顔で振り返った。


「それ本当!?」


と、あたしに聞いてくる。


「うん」


「明日花、紙とペンを持ってくるからちょっと待ってろ」


健はそう言うと、広間を出て走って行く音が聞こえて来た。


「その子、トシの絵の子?」


伶香があたしの前の席に座り、そう聞いて来た。


「う~ん……どうかな?」


トシの絵はあまりに下手で、同じ女の子かどうかはわからない。
< 163 / 205 >

この作品をシェア

pagetop