溶ける部屋
だけど、今あたしがその子の絵を描く事はできる。


そうしていると健がペンと紙を持って戻って来た。


「ありがとう」


あたしは健から両方を受け取り、すぐに描き始めた。


全体的な輪郭から、どんどん描き進めていく。


「すごい……」


あたしの手元を見て伶香がそう呟いた。


「あぁ。明日花には絵の才能がある」


健が自分の事のように嬉しそうにそう言った。


集中して書き始めるとどんどん周囲の音は聞こえなくなってきていて、ふと顔をあげるとこの場にいなかった郁美と弘明も出てきている事に気が付いた。


絵はもうすぐ完成だ。


みんなに見られている中描くのは少し緊張するけれど、手を止めずに描き進めていく。


「できた……!」


作業から1時間ほどで、あたしの絵は完成した。


不意に思い出したにしては、うまく描けたと思う。


絵の中の少女はおかっぱ頭で、スカートをはいている。


目は少し垂れていて、口はふっくらとしている。


それを見た瞬間弘明が「この子だ!!」と、声を上げた。
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