溶ける部屋
広間に移動して数分が経過した時、2人の声は聞こえなくなっていた。


静かになった建物の中、あたしと健の2人だけの鼓動が聞こえて来る。


あたしは立ちあがり、冷蔵庫の中身を確認した。


インスタント食品や冷凍食品、それにちょっとした食材がまだまだ残っている。


2人なら一か月くらいはまともな食事が取れそうだ。


極力量を減らしたとして、二か月。


森の中に木の実なんかがあれば、もう少しくらいは……。


そこまで考えてあたしは冷蔵庫のドアを閉めた。


いくら考えてみても、助けが来なければあたしたちの命も持たない。


大きく息を吐き出して椅子に座った。


「そういえばさ、どうして俺たちはあの時マミちゃんを置いて行ったんだろうな」


健がふいにそう言った。


あたしは昨日見た映像を思い出す。


あたしと健は2人で犬の散歩をしていた。


そこでマミちゃんが家に入れずに困っているのを見かけた。


それなら、一緒に散歩に行くとか、どちらかの家にマミちゃんを呼ぶことくらいできたはずだ。


「7月13日って、マミちゃんの誕生日だったよね?」


マミちゃんの失踪届が出された日。


あの日先生や親たちがひどく慌ただしかった事を、また思い出した。


「あ、そうか。俺たちあの後マミちゃんの誕生日プレゼントを買いに行ったんだ」


「そうそう! マミちゃんには内緒にしようねって話をしてたよね」


思い出して、あたしは懐かしい気持ちになった。


この記憶も、さっき少しだけあの部屋に入ったから思い出せたのかもしれない。
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