溶ける部屋
いつも通りの生活を続けていれば、あたしと健の関係は何もかわらなかったかもしれない。


「あたしは、健の事が好きだよ」


健の腕の中であたしはそう言った。


「あぁ。俺も」


健はそう言い、あたしの体を強く抱きしめた。


ここに来る前からお互いにわかっていることだった。


それでも、こうして言葉に出したのはこれが初めてだった。


言葉って、すごい。


口にした瞬間その思いは一気に跳ね上がり、好きで好きでたまらなくなる。


止められないかもしれないと思うほど、熱くなっていく。


あたしは少しだけ背伸びをして、健の唇にキスをした。


柔らかくて暖かな健の唇。


1度触れてしまうとその感覚を忘れられなくなりそうだ。


すぐに唇を離すと、今度は健が唇を押し付けて来た。


強引で、感情まかせに押し当ててきているのがわかった。


「これ以上は無理だ」


唇を離した健がため息交じりにそう言った。


歯止めが利かなくなる。


と言う事だと、すぐに理解した。


互いにくすぶっていた気持ちは今最高に燃えているのかもしれない。


だけど、今は我慢だ。


「手、繋いで寝よう」


せめて健のぬくもりを感じていたくて、あたしはそう言ったのだった。
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