溶ける部屋
あたしと郁美は目を見交わせた。


まさか、自分たちが眠っている間にトシがいなくなっているなんて、考えてもいなかった。


「でも、もう一カ所だけ探してない場所がある」


伶香がスッと息を吸い込んでそう言った。


「それって?」


「突き当りの、あの部屋」


伶香の声が少しだけ震えた。


昨日の恐ろしい出来事を思い出したのかもしれない。


弘明が伶香の手を握りしめた。


「あの部屋も、探してみるか……」


健が重苦しい声でそう言った。


「入るのは止めねぇけど、部屋に入ったせいで妙な気分になったなんて言うなよ」


弘明が険しい口調でそう言った。


彼女が襲われたのだ、そう言うのは当然の事だった。


「それなら、みんなで行こうよ。あ、伶香はここで待っててくれればいいから。中へ入った人に何が起こるのかも見てればわかるかもしれないし」


あたしはそう提案した。


1人で入れば危険かもしれないれど、みんなで行けば誰かが暴走しても止める事ができる。


そう考えたんだ。


「わかった、そうしよう。明日花と郁美の人は部屋の外から中の様子を見ててくれ。もし、中にトシがいて、俺たちも暴走しはじめたらその時は止めてほしい」


健がそう言い、あたしは大きく頷いたのだった。
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