溶ける部屋
電話
それからあたしたちはそれぞれの部屋に戻っていた。


健は1人で冷蔵庫にあるものを食べていたみたいだけれど、あたしは食欲がなかった。


ベッドに寝転び、天井を見上げる。


弘明の溶けていた耳を思い出し、ブルッと強く身震いをする。


弘明は健がトシを殺した犯人だと思っていた。


それが間違いだと言う事は、弘明本人が身を持って証明してくれたことになる。


この建物にいる全員が被害者。


そう思ってもいいだろう。


「あの部屋に入ると体が溶ける……」


あたしはそう呟いた。


でも、どうして?


その理由まではさすがにわからなかった。


体が溶けながらも、ずっとあの部屋の中にいたいような、懐かしいような感覚になるのだと言う。


それが犯人の狙いなんだろうか?


この森の中から出る事もできないあたしたちが、自分からあの部屋に入り、心地いいまま溶けて死んでいくのを待っているのかもしれない。


そう思うと、キュッと胃が痛くなった。


誰かが自分たちをこんな目に合わせている。


それはとても恐ろしい事だった。
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