溶ける部屋
「明日花」


ノック音がして、健の声が聞こえて来たのであたしは上半身を起こしてドアを見た。


「なに?」


「入っていいか?」


「いいよ」


そう返事をすると、健が菓子パンを片手に部屋に入って来た。


「少しは何か食べた方がいいだろ」


そう言い、クリームの入ったパンをあたしに渡す。


「ありがとう」


健の優しさが嬉しくて、あたしはパンをひと口かじった。


甘い味が口いっぱいに広がって、少しだけ元気になれる気がした。


「健は、あの部屋の事をどう思う?」


そう聞くと、健は難しい顔をしてあたしの隣に座った。


「犯人が用意したって感じだな」


「やっぱり、そうなのかな」


あたしは菓子パンに視線を落とした。


「あの部屋に飛んでいるホコリ。あれはただのホコリじゃないのかもしれないって思ってるんだ」


「え?」


「普通、ホコリは下に蓄積するだろ? だけどあの部屋のホコリはずっと空中を舞ってるんだ」


そう言われて、あたしは部屋の中の様子を思い出していた。


確かに健の言う通りかもしれない。
< 72 / 205 >

この作品をシェア

pagetop