溶ける部屋
なのに、電話のベルはけたたましくなり続けている。


「出てよ! それで助けに来てくれるかもしれないじゃん!」


伶香が言う。


だけど、健の表情は険しいままだった。


こちらから連絡を取る事はできないのに、開いてからはかかってくる電話。


犯人が自分のために用意したものだとしか、考えられなかった。


健は大きく息を吸い込んで、受話器を取った。


うるさいほどの電話の音がピタリと止まる。


「もしもし?」


健が言う。


「そんな挨拶いいから、早く助けを――!」


伶香がそこまで言ったとき、不意に部屋の中に声が聞こえて来た。


《黒川トシ死亡、残り5人》


男か女かの判断もつかない機械的な声に、4人はその場に固まったまま動けなくなっていた。


健は受話器を手にしたまま天井を見上げる。


どこかにスピーカーが隠されていて、電話の声はそこから聞こえて来たのだと言う事はわかった。


しかし、予想通りこの電話は犯人が自分の為に取り付けた物で、あたしたちも誰かに誘拐されてここにいるのだと言う事が、わかってしまった。


薄々気が付いていたことだったけれど、いざそれを突きつけられると混乱して頭の中が真っ白になってしまう。


「今のって……」


郁美が震えながら言う。


「犯人から、だな……」


健がようやく受話器を置いて、そう言った。


「トシが死んだって、どうして知ってるの?」


伶香が聞く。


そんなの、犯人が見ているからに決まっている。


きっとどこかに隠しカメラを仕掛けているのだろう。


あたしは気分が悪くなり、その場にうずくまってしまった。


せっかく食べた菓子パンを吐いてしまいそうだ。
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