溶ける部屋
「あぁ、それもいいかもな」


健が同意した。


生きていたときのトシが色々と考えて提案してくれた事だ。


それを無駄にしたくはなくて、あたしも「いいよ」と、返事をした。


「あたしたちの趣味に共通点はなかった。今度は好きな食べ物や嫌いな食べ物を言っていく?」


伶香が聞く。


しかし、弘明が左右に首をふった。


「そんなところを聞いても仕方がないと思うぞ」


「どういう事?」


伶香が聞き返す。


「趣味や食べ物の好みじゃなくて、血液型だったり身長だったり、もっと自分に密着したものの方が、ピンとくる」


自分に密着したもの……。


そう言われて、あたしは突き当りの部屋を思い出していた。


「もしかしたらさ……」


ふと、声に出して呟いていた。


まだしっかりと頭の中で整理できていないのに、みんなの視線を感じる。


「もしかしたら、だよ?」


あたしは念を入れてそう言った。


「あの部屋の中で記憶をたどって、それを提示していく事でみんなの共通点が見えてくるのかもって、思って……」


言いながら、自分の声がどんどん小さくなっていく。


あの部屋に入らなければならないということが大前提となっているため、弘明があからさまに嫌そうな顔をした。


「もしそうだとしたら、最悪だな」


弘明が吐き捨てるようにそう言った。


「ご、ごめん」


咄嗟に謝ると「明日花は悪くないよ」と、伶香に肩を叩かれた。
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