溶ける部屋
「なにか、思い当たる番号なんてないよな?」


健がみんなにそう聞く。


しかし、みんな何も言わなかった。


この部屋を開けるための番号なんて、見当もつかない。


「それなら『00000』から順番に入力して行くしかないか」


健がそう言うので、あたしは目を丸くした。


5ケタの番号を最初から順番に入力していくと、一体なん通りになるだろう?


何度か間違えればロックがかかって入力ができなくなると考えると、途方もない時間を費やす事になりそうだ。


こんな事なら、初日にここへ来たときからでたらめでいいから番号を入れて見ておけばよかったんだ。


そう思い、下唇を噛んだ。


「最初に『00000』と入力するぞ、いいな?」


健が聞く。


あたしは頷いた。


伶香も郁美も弘明も、文句はなさそうだ。


「なんだか緊張するな」


健はそう呟き、番号を入力した。


ピッピッと機械的な音が静かな廊下に響く。


こんな番号じゃ開かないだろうと言う事はわかっているのに、無意識の内に拳を握りしめてその様子を見守っていた。
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