天国の不動産
入店




辺りは草原が広がっており、僕は知らぬ間にそこに倒れていた。



いや、眠っていたと言う方が感覚として正しいのかもしれない。



これから彼女とデートで、待ち合わせの駅に行くつもりだった。



衣替えしたばかりの夏服。



一番お気に入りの服を身にまとっているから間違いない。



親には「出掛けてくる」とだけ伝え、しれっと家を出たとこは覚えている。



彼女におすすめをして、気に入ってくれた曲をウォークマンで聞いていたことまでも覚えている。



しかし、なぜこんな大草原で眠っていたのかは全く思い出せない。



都内在住の人が大草原に来る機会なんてそうそうないし、夢なんじゃないかとベタなことを考えるような性格ではない。



しかし、全く状況は読み込めない。



とりあえず待ち合わせしていた彼女に連絡をしようと冷静な判断でポケットからスマホを出す。



待受には江ノ島で隠し撮りした、海を背景に彼女が笑って振り向いた瞬間の写真が目に入る。



日常は何も変わっていない。時刻は12時21分と、待ち合わせの12時半にはなっていないと安心する。



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