天国の不動産
母親がたじたじとしつつも、鞄を持って葵の前を歩き出した。
「そうか…クリニック…」
葵が後ろで呟く。
まだ抜け出せない違和感が纏わりつく。
何が起きているんだ。
電車の中でも、その空気は拭えなくて、いつもより会話は少ない。
それを打破しようとしたのか、母が口を開く。
「あ、葵が元気になるのは嬉しいけど、あんまり急でびっくりしちゃった。そうよね。もう4年も経つもんね」
「4年…?」
「服薬や通院回数も減らしていけるかもね」
「服薬…」
小さな声で母の言葉を復唱する。
何かを考えているのか、あちこち目が泳いでいる。
何故か僕の心拍数が上がったような気がした。
そして、葵がゆっくりと口を開いた。