天国の不動産




母はそれ以上言わなかった。




病院に着くと、普段だと担当医のカウンセリングで始まるのだが、今日は母の希望で、葵抜きで話をすることになった。




「葵の様子が変なんです。急に湊くん以外の男の人の話を出してきたり、病院に行っている理由を忘れていたり。確信に触れることは聞けませんでした。突然だったんです。アルバイトから帰ってきてから、様子がおかしくて…元気ではあるんですけど、何というか…昔の葵に戻ったような…」





葵の母が必死に担当医へ状況を伝える。




手は震え、顔色も悪くして、あたかも悪いことが起こったかのような、そんな表情だった。



「本人の話を聞いてみないと何とも言えないですが、記憶喪失か…強い精神ストレスからくることは稀にありますので、事故当初だとまだわかるのですが、4年経って、しかも病状も回復しつつある今、記憶がなくなるとは考えにくい」




医者もカルテを見ながら困った顔をしている。




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