天国の不動産
それを聞いて彼女がゆっくりと口を開く。
「分かります。その気持ち。こうして動いて、話せて、意識がある今、自分が死んでしまっている自覚なんてありません。
でも、生者に会いに行くことで、私のいなくなった世界を見に行くことで、自分が死んでしまったことを実感できるのかなとも思います。とても、怖いことですが……」
同じ考えであったことにホッとしている僕の気持ちを察したのか、彼女はにっこり笑って続けた。
「良かったら少しお話しませんか?私、戸倉弥生といいます。一緒に悩みましょ」
これまでの僕はあまり人と関わらないタイプだった。
大学でも特定の友人とだけ仲良くし、昔から群れることはなかった。
人見知りのため初対面は特に嫌いで、新しいことに避けてきた。
しかし、ここでは頼れる人もおらず、話す人もおらずの何も無い空間。