天国の不動産
「なのに、何をそんなに悩んでんの?さっきから……顔、苦しそう。綺麗ごとだと思う。知らない人も大切、みんな大切、忘れられたくないって。それらを捨ててでも、会いたい人がいるんじゃないの?」
弥生の顔にきゅっと力が入る。
喋りすぎた。
謝る言葉も出てこず、顔を隠すように下を向いた。
「会いたい人は……います。でも、あたしは……綺麗事だと思われたっていい。誰の心からも死にたくない……」
思わずゾクリとした。
忘れられるということは、その人の中で本当に死んでしまうということ。
まるで初めからいなかったかのような。
そんな扱いを受けることとなる。
「大丈夫だよ。1人くらい……」
僕には無責任な言葉を小さな声で吐くしか出来なかった。
自分だって悩んでいるくせに。
誰かに忘れられる決断、すぐにはできないくせに。