天国の不動産
そう言う弥生は女優、戸倉有紗の顔だった。
「逢坂さんは、生者に会いに行くつもり?」
弥生が急に有紗に見えたためか、目を合わせられない。
「僕は……」
吃りながら目線を遠くの門へとやる。
「まだ死んだ実感ができていないから……謝りたいとかはない。会いたいというより、日常に帰りたい」
言って気付いた。
自身が求めていたもの。
何でもない日常が好きだった。
居心地のよい、いつも通りの毎日で良かった。
そこに居たいだけだった。
弥生はそれを聞いて、ニッコリと微笑んだ。
「そういう理由で生界へ行くのも良いと思います。きっと、みんなが望んでいることですね」
でも……
やはり、記憶がなくなってしまうことが引っかかる。
もし生界へ行けても、日常の人たちが自分のことを忘れていたらそれは日常ではなくなる。
それでも行きたいと思うほど、僕はどうやら日常に固執していたようだ。