天国の不動産
静かに時が流れる。
死んでどのくらい経ったのか分からない。
きっと、ずいぶん経ったようで、全然経っていない。
「天国」の勝手なイメージだった。
ふと、弥生が立ち上がった。
「あたし、不動産に生まれ変わりの相談をしてきます」
途端、不安になった。
「やっぱり下には行かない…?」
「本当は行きたいけど、もし生まれ変わりで彼に会えるのなら、それでもいいかなって。生まれ変わりってある程度何になりたいか選べるみたいだし」
「そう……なんだ」
まだ死んだ自覚すらしていない僕に、生まれ変わりの選択肢はない。
「ねえ、一つ聞いてもいい?」
去り際の弥生を呼び止める。
振り返り、何でも聞いてと言わんばかりに余裕のある笑顔を見せてきた。
「君は、いつ死んだの?」
「5月8日。午前6時くらいかな。あなたより少し早いね。あたしの死、まだニュースになってなかった?」
そういう弥生の笑顔は変わらず綺麗だった。
まるで自分の死を初めから知っていたかのような。
まだ受け入れることすらできていない僕は、置いていかれたようでしかなかった。