天国の不動産
連絡も朝の「おはようございます。遅刻は厳禁です」という文字と、にっこりマークのスタンプが送られてきており、記憶通りのやりとりがあるだけだった。
変わらない日常と、非日常の現実に混乱し、僕は無意識にもう一度辺りを見回していた。
ふと、突然視界に入る建物。
さっきは気付かなかった白い小さな建物がぽつんと不自然に立っているのが横目に見えた。
怪しげでもあるその建物は、見果てぬ草原の中に一つ、美しくも見えた。
標識も何も無いここで自分の居場所を確かめるためには、唯一の人工物であるそれに頼るしかなかった。
身体を起こして一直線に目的へ向かう。
疲れのない、朝起きた時の爽快感に似た、少しだけ軽く感じる身体がまるで自分のものではないかのような、説明し難いようで、とても不思議に感じた。
白い建物の中には、人影が見えた。
なんとなく、この世界には僕だけしかいないような気がしていたため、自分以外の人がいることに少しだけのため息と、大きな安心感を抱いた。
近づくにつれ、中にいる2人の人影がはっきりしてくる。
同じくらいの年の女の子と、カウンターを挟んでスーツをしっかりと着こなした30代後半くらいの男性が向かい合わせで話をしている。