天国の不動産
別にのぞき見をしていたわけではないが、僕に気付いた女の子が慌てて話を切り上げ、建物から出てきた。
軽い会釈と「すみません、どうぞ」というか細い声を向けて。
「どうぞ」ということは、僕もこの建物に用があると思ったのだろうか。
僕は彼女の後ろ姿を目で追いながら、目的もなく建物に入った。
そんな僕に「いらっしゃいませ」という声が降り掛かってきたのは、予想外だった。
大草原の中妙な雰囲気を出している白い建物。
まさかお店屋さんだとは思いもしなかったから。
きっと僕の顔は驚いたまま。
すると、店員であろうその30代後半の男性は、全てを分かっていますというような顔で「いらっしゃいませ」と再び声を出した。
「えっと……」
なんの店に来たのか、何を口にしていいかも分からず、困惑した僕に男性は「どうぞおかけください」とカウンター前の丸い椅子を差し伸べる。
まるで何も信じられないような感情で恐る恐る座ると、男性は再びにっこりと笑った。