天国の不動産
「今回生界に降りたことによって、あなたの記憶が消えた方は不動産へ問い合わせれば分かりますので、知りたければご自由にどうぞ」
そういえばそうだった。
途中までは覚えていたのに、葵の姿を見ているうちに忘れてしまっていた。
考えることが多すぎる。
「わかりました…」
とりあえずそれだけを返し、門をくぐる。
天国に戻ってきてしまった。
自分でも気づかないうちにため息がこぼれる。
これといった目標も、やりたいことも、生きることへのやる気も多分他の人よりはなかった。
なんとなく生きてきた自覚はあった。
特別なんていらない。
ただ、平凡に生きて、平凡に死んでいくんだろうと思ってた。
死にたいと思ったことはないけど、生きたいとも思ったことがなかった。
そもそも、そういうことを考えたことがなかった。
まさか自分が死んだことに後悔する日がくるとは思わなかった。
それも、他人のために。