天国の不動産
黙って何も言えない僕に、山下は2.3秒間をあけて再び口を開く。
「が、持っていける記憶は1つだけです。あなたは前世の彼女があなたの死を苦しみ、悲しんでいるという記憶を持っていくのですか?」
やはり、山下には僕が何で悩んでいるのかお見通しだった。
不動産屋のパソコンは情報の漏れがないらしい。
「それは…」
「残したものと残されたものはもう別の世界の魂です。彼女に同情するのは構いませんが、別の世界の魂が寄り添ったり、元気づけたりと、生きた人間を救うことは出来ません」
分かってはいるけど、見てしまった以上、どうしても納得が出来ない。
僕の中ではその気持ちが延々と繰り返されていた。
「まあ後悔なく成仏出来るのが一番ですから、ゆっくりと考えてみてください」
心のため息が深く深く穴を掘る。
これまでの人生、なんとなくうまくやってきたつもりだった。
まさか、死んでからここまで躓き悩むとは思いもしなかった。