天国の不動産





葵に自分を忘れてもらおうと決めてから、なんとなく思い出が鮮明に蘇ってきている気がする。




そして思い出す度、それも全て葵は忘れてしまうのかと虚しくなる。





葵の家はマンションの7階。




空も飛べなければ、壁もすり抜けられない、物も触れない幽霊になった僕には忍び込むには一苦労だった。




マンションの住人が出入りするのを待ち、なんとか一緒にエレベーターに乗り込み、もちろんエレベーターが7階で止まるとは限らないので、同乗した人と同じところで降り、そこからは階段で上り下りする。





更には葵の家の誰かが玄関を開ける必要があり、その隙に侵入する。





この時間に門を開けてくれて助かった。




葵の弟がちょうど学校へ行くところだった。




「姉ちゃん、今日も大学行かないつもりかな?」



「どうかしらね。心配してくれてありがとう」




玄関先では葵の弟と母親がそんな会話をしている。





< 69 / 114 >

この作品をシェア

pagetop