天国の不動産
葵に自分を忘れてもらおうと決めてから、なんとなく思い出が鮮明に蘇ってきている気がする。
そして思い出す度、それも全て葵は忘れてしまうのかと虚しくなる。
葵の家はマンションの7階。
空も飛べなければ、壁もすり抜けられない、物も触れない幽霊になった僕には忍び込むには一苦労だった。
マンションの住人が出入りするのを待ち、なんとか一緒にエレベーターに乗り込み、もちろんエレベーターが7階で止まるとは限らないので、同乗した人と同じところで降り、そこからは階段で上り下りする。
更には葵の家の誰かが玄関を開ける必要があり、その隙に侵入する。
この時間に門を開けてくれて助かった。
葵の弟がちょうど学校へ行くところだった。
「姉ちゃん、今日も大学行かないつもりかな?」
「どうかしらね。心配してくれてありがとう」
玄関先では葵の弟と母親がそんな会話をしている。