天国の不動産
葵の部屋の扉は開かなかった。
母親がいくら声を掛けても一切返事はなく、鍵がかかっている。
引きこもっていることは予想できたはず。
家の中に侵入できても、葵の様子が見れないのであれば意味がない。
扉が開かなくとも、ベランダから様子を見た方が良かったかもしれない。
明日はそうしようと、どうやったらベランダへ行けるか、このマンションの設計を思い出しながら、明日のためのイメージを頭の中で作る。
既に死んでいるから、落ちても大丈夫だろうという勝手な幽霊のイメージだが。
とりあえず、今日も引きこもっているということは、僕の記憶はまだあるということ。
2日目でそう簡単に消えないことは分かっていたが、一瞬ほっとしてしまったことには気づかない振りをしておいた。