天国の不動産
不動産の扉が、今日は何となく重かった。
理由はなんとなく分かる。
「いらっしゃいませ」
山下は相変わらず営業的な顔をして言う。
「あなたの記憶がなくなった人物についてですよね。すぐにお調べします。どうぞおかけください」
目の前の椅子をすすめる山下に、僕はため息混じりに腰掛ける。
「えっと、今回生界へ降りたことによって記憶を無くした方はですね…」
パソコンのキーボードを打つ音が何となく鬱陶しい。
「大石美代子さんです」
聞いたことのないその名前に、ドキンとする。
「大石…美代子…」
復唱してみるが、やはり聞き覚えがない。
だけど、大石美代子の顔ははっきりと脳内に浮かんでいる。