天国の不動産
「駅前の、花屋のおばちゃんですよね」
「そうですね。何となく分かっていましたか?」
「分かりました。葵と話をしているのを見て、分かりました。近くで事故があったことを知らないかのような…知っていても、そこで死んだのが僕じゃないことを知らないような…葵がなんで毎日花を買っているのか分かっていなかった」
山下と目が合わせられなかった。
2回目にして、直前まで関わっていた人物から、自分の記憶が消えてしまった。
その人の中で自分が2度、死ぬ意味。
分かっていたような、分かっていなかったような。
分かってはいたけど、初めて実感できた。
何とも言えない、「死」への恐怖。