天国の不動産



「でも、生者に会いに行くには条件があって。1回行くごとにあなたを知っている人の1人から、あなたの記憶がなくなります」




……どういうこと?




また、分からなかった。




彼の言っていることは僕にとって現実味を帯びていなかった。




「毎年1回だけ、お盆に門が開放されます。その時は誰かの記憶が消されることはないので、毎年お盆だけ様子を見に行く方が多いです」



「あ、もちろん生まれ変わりを契約されていない方で」と付け加え、そのまま言葉を続ける。




「でも、それ以外であの門をくぐると、あなたが人生で関わってきた方の誰か1人の記憶がなくなります。

それは大切な家族の誰かかもしれないし、恋人、友人かもしれない。はたまた1度しか会ったことのない、これからも会うことのない方かもしれません。

誰の記憶が消されてしまうのかは分かりません。あなたが今まで関わってきた何百、何千人の中の1人です。

なので、自分の大切な人の記憶さえなくならなければと考え、何百、何千分の一の確率にすがって行く方もいますが……」




下を向いていた目線が僕の方へ向けられる。




「ただ、行ったところで死者が何かをできるわけではないですし、忘れられるということは、その人の中で本当の意味で死んでしまうということになるので……私はあまりオススメはできません。それでも行きたいというのでしたら、あちらの門へ行ってみては……?」




説明の間、僕は全く声を挟めなかった。



< 8 / 114 >

この作品をシェア

pagetop