獄卒少女にご用心!
プロローグ
そのアラーム音が鳴ったとき、椅子の上で居眠り中の、二ノ宮ナオは飛び上がった。
『ブースバーカ、ブースバーカ』
「はああああ!?ちょっ、ウソでしょ!!」
一気に夢の国から帰還し、慌ててデスクの上に放り投げていたスマホをわし掴む。
この悲惨な音を止めるにはまず、ロックを解除するためのパスワードを――あれ、『暗証番号が違います』??
そんなはずは―――『暗証番号が違います』―――あれれれ???
戸惑っている間も一向に鳴りやまないアラーム音(ブスバカコール)と周囲のざわめきに、冷汗が止まらない。
「ナオちゃーん、なにそのアラーム!ちょーウケるんだけど!!」
背後から覗き込んできたのは、にやけ顔の上司だ。うわ、煙草咥えたまま顔を近づけるな、危ないでしょ、このヒゲオヤジ!
『ブースバーカ、ブースバーカ』
「全ッ前ウケませんから松前(まつまえ)さん!!もーっ誰か私の暗証番号知りませんかー!!?」
「1224。」
「そうなんだけど、そうじゃないみたい、変更されてて―――って、松前さんなんで知ってんのぉ!?」
「あっははは、暗証番号を誕生日にするなんて、とても公務員とは思えないよねぇ、君。」
ぽかんと口を開けたナオからスマホを取り上げた松前は、呑気に「カバー可愛いねぇ、ちょっと変わってるけど。」などと言いながら一通り眺めた後、スマホから飛び出る声に耳を傾けた。
そして、喉の奥でクツクツと笑う。
『ブースバーカ、ブースバーカ』
「この声、アキトの奴だな??あいつも手が込んでるなー。」
「か、感心してる場合じゃないです!その音何とかしてくださいー!」
キーッと一つ結びの黒髪を揺らし、ナオが松前の持つスマホを奪い返すよりも早く、そのスマホは別の細い指によって掻っ攫われた。
「もう、何やってるんですかぁ?」
ピカピカのネイルが施された指の主は、後輩の日下部(くさかべ)イオリ。
今日もばっちりメイクでそのかわいらしさを最大限まで発揮している彼女は、その大きくて桃色の瞳を細つつスマホを眺める。
「えー、先輩何ですかこのキャラクター、キモイですぅ。」
人のスマホカバーへ辛辣な感想を述べた彼女は、迷いなくスマホの電源ボタンに指をかけた。
「電源、オフにしちゃえばいいじゃないですかぁ。」
「「あ。」」