獄卒少女にご用心!
―――――その発想はなかった。
いとも簡単に『ブ―』という音を最後に静かになったスマホの、真っ黒い画面に情けない自分の顔が映っている。
音が止まったことには安堵したが、結局暗証番号分からないままなのだから、しばらくスマホ使えないという結論に気がついてしまい、がっくりと肩を落とす。
「それにしても、幼馴染で同期とはいえ相変わらず容赦ないですねぇ、アキト先輩。」
「いや、幼馴染で同期でもこんなことする!?フツ―!」
「はっはっは、あいつのナオちゃん弄りはこの部署じゃ最早有名だからなぁ!!今朝は緑茶にワサビ入れられてただろ。」
「だから笑い事じゃない!おかげで鼻水が止まらなくなったんですから!!」
ぐぬぬぬ、とナオは歯を食いしばりながら、隣のデスクを睨みつける。
居眠りする前の記憶では、奴は隣に座っていたはずだが……卓上の『椎名(しいな)アキト』というネームプレートに『報告中』というマグネットが貼ってあるのを見ると、どうやらしばらくは戻ってこないようだ。
「ああ、アキト先輩なら、一昨日の飲み屋で妖怪・『一つ目』が暴れた件について、報告書を提出しに行きましたよぉ。なんでも、酔った勢いで人間の女の子を食べようとしたとか。」
「知ってる。それ、私も一緒に出動したし……てか、その報告書アイツの代わりに書いたの私だし!!」
さも自分が書いたかのように報告しているであろうその事件とは、居酒屋で酔っぱらった妖・・・顔に大きな目が1つだけ付いているのが特徴の、『一つ目』が3人、店員で人間の女の子を食べようとして失敗し、店から逃走した件だ。
人食い未遂の罪と無銭飲食で通報があったとき、ナオにもあいつにも召集が掛かったのだ―――その、人間に危害を加えかけた、『妖(あやかし)』を捕まえるための『警察官』として。
……いや、正しくは『警察』であって、『警察』ではない、のであるが。
「いつもいつも…こうなったら私も仕返ししてやるんだから……!!」
ピクリともしないスマホを睨み付けながら呟くと、松前が苦笑いしながら煙草の煙を吐いた。
「やめなよナオちゃん。君、いっつも失敗してるじゃないか。」
「いいじゃないですか松前さん、面白いしぃ。…で、何するんです??」
さて、どうしようか。ナオは再び隣のデスクに目線を送ると、無造作に置かれた小さなカギを発見した―――手に取ってみるとそれは、更衣ロッカーのカギだった。