獄卒少女にご用心!
太陽が色を変え、夕暮れが匂い立つ空の下、小さな少女が毬をつく。
「月光輝く真夜中に~コンコンコン、と狐鳴く~♪」
鈴のような声で口ずさむ歌に合わせて、毬をつくたびにサラサラと肩の上で黒髪が揺れる。
通りには、着物姿でただ1人毬をつく少女以外、誰もいない。
「夢路旅立つ雛鳥が~ピイピイピイ、と親を呼ぶ~♪」
ジジ…ジジ…と不規則的に光をともし始めた街路灯さえ、彼女の歌に合わせているようだ。
時期に光の周りには羽虫が集まり、寄って集って細やかな音を増やす。
「迷い込んだ人の子は~ここはいずこ、と彷徨えり~♪」
そこに、新たな音がもう1つ。
「おい、ガキ。」
ザリ、と砂利を踏みにじる音に加え、突然聞こえた声とともに、ピタリと少女の歌声が止まる。
跳ねた毬は帰る手を失い、てんてんてん、と道端に転がっていった。
「あら、何か御用、お兄さん?」
少女は毬を追おうともせず、自分の目の前に立った若い男を見上げた。
若い男は黒髪に和服姿の少女とは反して、薄茶の髪と瞳に上下は伸びたスウェット、足元はスリッパという……かなり良く言えば、非常にラフな格好をしている。
そして右手に提げたコンビニのビニール袋がよく似合っているのに反して―――その腰には、黒い刀がぶら下がっていた。
「そんなとこで歌ってないで、さっさと家に帰んな。」
「うふふ、優しいのね。……でも残念。帰るつもりはないわ。」
少女の返答に、男は形の整った眉根を寄せる。
「もう夜だってのに、お前ずっとここで歌う気か?近所迷惑な奴。」
「あら、何を言っているの?・・・私は『さっき起きた』のよ。」
少女は口の端を持ち上げ、その幼い容姿に似合わぬ笑い方をして見せた。
「いいじゃない、人間はどうせ眠っているんだし、迷惑かけないわ。
これからは私たちの時間。―――そうでしょう、ハンサムな『獄卒』さん?」
『獄卒』、そう呼ばれた男は一瞬双眸を光らせたが、すぐに怠そうな顔になる。
「ハンサムて…お前、結構歳いってんな?あと、『その呼び方』は好きじゃねー。」
「そうなの?うふふ、ごめんなさい。私もガキって呼び方はいやよ。」