los episodios de suyos
 溜め息をつき、ナタリーが運んできてくれたロトロを一口。朝はやはりさっぱりしたパニーノに限る。水の都・ヴェネツィアで獲れて今朝届いたという新鮮な魚介類を使ったサラダも味わい、身支度を整えることにした。

 軽くシャワーを浴びて歯磨きを済ませ、いつものようにスーツに袖を通す。気を引き締めるために、ネクタイを少しだけきつく結んだ。部屋を出ようとすると、丁度聞こえた扉のノック音。このガサガサした叩き方は新人のアンジェリーナだ。『入れ』と告げると、『失礼します』という彼女の声がした。



『食器を下げに参りました!』

『あぁ、ありがとう。俺はこれから出かけてくる。』

『行ってらっしゃいま……あーっ!群様忘れ物ですぅ!!』



 相変わらず朝から喧しいなと思って振り返れば、胸元のポケットにあるハンカチに、ボトルの中身を吹き付けられた。爽やかに香るその匂いに、高ぶっていた心が少しだけ安らぐ。

 金髪にグリーンの目をしたアンジェリーナは、『忘れちゃダメでしょう?群様のお気に入り!』と言ってニコリと笑んだ。あぁ、そうだった。俺は笑顔を返し、肩越しに手を振った。



「Grazie.(ありがとな。)」
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