los episodios de suyos
 俺にとって兄のような彼は、どうやら心配性らしい。彼を不安にさせたくなかった。だから俺は、さりげなく話題を逸らした。



『……何でもねぇ。それよりお前、少しはスペイン語勉強してきたか?』

『当たり前ですよ。エストイ・カンサードに、キエロ・ドルミール……』

『テメェは俺の側近から外されたいようだな。』

『冗談ですよ。“疲れてる”と“寝たい”なんて、ボスの前では使えません。』



 ケラケラと笑う奴の頭を軽く小突いてやる。『ジャッポーネに憧れてこうしたんです』と言っていたその黒髪は、以前は一体どんな色だったのだろうと不意に考えてしまった。

 間もなく拍手が会場全体を包み込み、俺達もそれに混ざり手を叩く。身長190センチ程のスペイン人男性と、170センチ後半はありそうなアジアンの顔立ちの女がステージ中央にあるスタンドマイクの辺りまでやってくると、全ての拍手がピタリと止んだ。

 場内をぐるりと見渡し、長身の男性――フェルナンドさんがマイクに手を伸ばした。



『会場の皆様。今宵は我がローサファミリーの新ボス就任式に起こし下さり、本当にありがとう。
皆様にご紹介しよう。私の後任である、娘の未来だ。』
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