los episodios de suyos
『悪いが、ちょっと急ぐんでな。背後には気を付けろよ!』



 そう言って離れようとした時、『待ってくれ』という声が耳に入る。灰色のスーツを着たその男は、次いでこう言った。



『もしかして、サンダースの息子か?私の記憶が正しければ、何年か前に家を出た長男だろう?』

『……あぁ、そうだ。それがどうかしたか?』



 50代、だろうか。そんな彼は、オレの頭に手を置いてこう言ったのだ。



『……お前に会ってみたいと思っていたんだよ。闇に染まりきらないその目を、見てみたかった。
ウチはお前の意志とよく似てるファミリーでな。新人には必ず“決して撃つな”と教えるんだ。意味が分かるか?』



 首を横に振るオレ。男は珍しく晴れ渡るイギリスの空を見上げ、こう口にする。



『“殺すな”、ということだよ。私は部下に、“武力より言霊を重んじろ”と教えている。歴史を動かすのはいつも、誰かの些細な一言なんだよ。』



 ――彼が言い切った、その瞬間。オレの心に二度目の光が差した。“この人についていきたい”と、そう思った。
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