los episodios de suyos
 ――あれは土砂降りの雨の日。まだパパがボスをしていた頃の話だ。彼の部下として少しだけ実際の現場で活動し始めていたアタシは、道端で雨矢に刺されながら横たわる黄土色の塊を見つけて立ち止まった。

 近付いていって目を凝らせば、倒れているのは真珠の肌にブロンドの髪をした幼い少女だった。お世辞にも綺麗とは言えない布をかき集めて繋げたような服があまりにも彼女に不釣り合いで、アタシは失笑してしまった。

 声をかけるが、聞こえている筈なのに反応がない。手はピクリと動いているから“聞こえて”はいるのだろう。もしや彼女には、ただの“音”としてしか認識されていないのだろうか。

 アタシはそれまで喋っていたスペイン語をイタリア語に変えてみる。依然として反応がない。続いて英語を話してみるが、やはり無反応。日本語で通じる可能性は低い。だとしたら……



『ねぇ、アンタ大丈夫?生きてる?』

『……お姉さん、天使?』



 彼女の第一声がそれだった。生まれて初めて表社会(そと)の人間と交わしたフランス語は、ファンタジー小説顔負けの会話。耐えきれずに吹き出すアタシを見て、少女はボーッと無垢な目をこちらに向けていた。
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