los episodios de suyos
『……もしもし?』

『帰りが遅いから、心配になって。新しい仕事、始めるんでしょう?鉄工所より稼ぎは良いの?』



 冗談めかして言い、クスクス笑ったセリア。受話器越しに愛娘の笑い声も聞こえてくる。それを思うと、少しだけ胸にくるものがあった。



『……あぁ。悪いんだが、あまり会えなくなるかもしれない。それでも良いか?』

『ダメって言っても聞かないでしょう?それに、私の直感が何も言ってこないから大丈夫そうだわ。体に気を付けて、たまには顔見せに帰ってきてね。皆さんによろしく。』



 彼女には、全て分かっているのだろうか。“頑張って”ではなく“気を付けて”と言った辺り、先のことに敏感な彼女らしい発言だ。



『あぁ、約束する。アシュリーには上手く言っておいてくれ。時期が来たら説明しよう。』

『ええ、そのつもりよ。とりあえず、今日はウチに帰ってくるのよね?買い物袋、持ってきてくれないと困るわ。』



 隣へ立つ男に視線で訴えたら、小さく首を縦に振ってくれた。最後の夜は、夕飯がとても豪華だった。翌日の早朝、彼女はサンドイッチの入った箱を渡しながら、優しいキスと『行ってらっしゃい』の言葉をくれた。
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