los episodios de suyos

『――待て！止まらんか!!』

『いい加減大人しく捕まりなさいよ！』

『チッ、しつこい奴だぜ……おい！こっちは十人、向こうは一人だ。どちらに勝ち目があるかは目に見えてる！ただし気を抜くな!!』



　サーカス団員には、時にちょっとした演技力が必要となる。今の私は、警官達に追われる悪党の役だ。差し詰め、怪盗といったところだろう。

　あっという間に囲まれた盗み屋に、不安げな目を向けてくる子供達。“ショーはこれからよ。”心の中で呟いて、私は身を後方に翻し、勢い良く地面に手を付いた。

　――速度が落ちることのないバック転で、人の間をすり抜けていく。興奮状態で手を叩く観客を横目に、体勢を整えて階段を駆け上がる。追っ手に追い詰められたのは、見物人達の遥か頭上にある鉄筋の上。そこには一本のロープが張られているだけだ。



『ハッハッハ！どうやら逃げ道がなくなったようだな!!』

『さぁ、観念して大人しく逮捕されるのよ！』



　じりじりと迫りくる人々。逃げ道は、ない。彼らはそう言ったが、それは一般人に対してのみ通じる話。残念ながら、身軽な怪盗には通用しないのだ。

　ここで、観客に視線を向ける。以前団長に教えられたことだ。あの台詞を口にする時は、このやり方が最も効果的で、感動を生むのだと。



『……観念するのは、果たしてどちらかな？』