los episodios de suyos
『残念ね、アタシは天使じゃないわよ。どっちかと言えば悪魔の方に近いわね。』

『嘘……本当に天使かと思った。だって、こんなに綺麗な人見たことないもん。』



 何を思ったかは知らないけれど、あの子は黒髪・黒目がちのアタシのことを“天使”と呼んだ。アタシからすれば、彼女こそ天使だったのに。



『アンタの視力おかしいわよ。病院行ったら?
……って、無理よね。もしかしてアンタ、ストリート・チルドレンってやつ?』

『……買われたの、男の人に。パパとママに、捨てられたの。だから、逃げてきたの……』



 彼女の告白は、あまり年の変わらないあたしの心臓を激しく揺さぶった。こんな可愛い子がどうして売られなければならないのだろう。両親を探して撃ち取ってしまおうか。

 ――そう思ったのだけど。アタシの中には、別の“新しい”感情が生まれてきた。



『……アタシがアンタを拾ってあげる。』

『……え?』

『だから、アンタはもう一人じゃないよ。名前は?』

『分からない……忘れてしまったの。』

『……そう。』



 アタシは空を仰ぐ。すっかりと晴れ渡った街角。彼女の名前が、“そこ”にあった。
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